ルヴァンと発酵
人はなぜ発酵したパンを食べ続けてきたのか?
味噌、醤油、納豆、漬物、チーズ、ヨーグルト、ワイン。
そしてパン。
世界中を見渡すと、人は昔から発酵したものを食べ続けてきました。
国が違っても。
文化が違っても。
時代が違っても。
不思議なくらい、人類は発酵を手放しませんでした。
なぜなのでしょうか。
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私たちは毎日、ルヴァンを育てています。
小麦と水だけで作られた発酵種です。
その中には、酵母や乳酸菌が生きています。
目には見えませんが、確かに生きています。
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私は毎日ルヴァンを見ています。
香りを見る。泡を見る。味を見る。
元気な日もあります。
少し機嫌の悪い日もあります。
まるで生き物です。
実際、生き物なのだと思います。
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パン作りというと、職人が作っているように思われます。
もちろん手は動かします。
粉も挽きます。成形もします。焼成もします。
でも、私は時々思います。
本当にパンを作っているのは、微生物なのかもしれない。
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彼らは小麦を食べ、糖を分解し、炭酸ガスを出します。
だからパンは膨らみます。
しかし、発酵の役割は膨らませることだけではありません。
むしろ本質は、食べ物を変化させることにあります。
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小麦は種で、植物の命です。
次の世代へ命を繋ぐために作られています。
その中には、
デンプンも、タンパク質も、ミネラルも、フィチン酸もある。
様々な物質が複雑に存在しています。
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発酵とは、それらを微生物が少しずつ分解し、
組み替え、別の形へ変えていく作業です。
人間が包丁を使うように、微生物は酵素を使います。
私たちが食べる前に、微生物が先に食べているとも言えます。
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フィチン酸にも変化が起こり、タンパク質にも変化が起こり、
でんぷんにも変化が起こります。
香りも、味も、食感も変わります。
同じ粉でも、発酵前と発酵後では別の食べ物になっているのです。
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私は発酵を見ていると、自然界の循環を感じます。
菌がいて、穀物がいて、人がいる。
その関係は、何千年も続いてきました。
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考えてみれば不思議です。
世界中の人々は、なぜ発酵したものを食べ続けてきたのでしょうか?
文化は違っても、人類は発酵を選び続けてきました。
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もちろん昔の人は、腸内細菌という言葉を知りません。
フィチン酸も乳酸菌も知りません。
しかし、経験として知っていたのだと思います。
時間をかけ発酵した食べ物は違う。
身体が受け取る感覚が違う。
そうした積み重ねが、発酵文化を作ったのだと思います。
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現代はとても便利です。
早く、大量に、均一に作れる、それは素晴らしいことです。
でも、発酵には時間が必要です。待つことが必要です。
効率だけでは測れません。
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私たちのパンは、長いものでは二日以上発酵します。
その間、微生物は静かに働き続けます。
誰にも見えないところで、小麦を少しずつ変えていきます。
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私は、身体に良いパンを作ろうとは思っていません。
それは結果としてお客様が判断することです。
でも、身体が受け取りやすい方向へ向かうパンは作りたい。
そう思っています。
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私は発酵を見ていると、人間は昔から、
微生物と一緒に食事を作ってきたのだと思います。
味噌もそう。
醤油もそう。
納豆もそう。
漬物もそう。
そしてパンもそうです。
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発酵とは、
人が作るというより、人と微生物が共同で作る営みです。
私たちは環境を整えるだけ。
温度を見て、湿度を見て、
そして、待つ。
あとは微生物が働きます。
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現代の食べ物は、速く作ることが得意です。
でも発酵は違います。
急がせることができません。
微生物には微生物の時間があります。
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だから私は、ルヴァンを育てていると、
時間そのものを食べているような気持ちになります。
一日。
二日。
時にはそれ以上。
微生物が働いた時間が、パンの中に残ります。
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人と穀物。
人と微生物。
人と時間。
パンはその全てを繋いでいるように思います。
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その関係は、一万年以上続いてきました。
私たちは、その長い時間の中で受け継がれてきた知恵を、
パンという形で残したいと思っています。
石臼で挽くこと。
ルヴァンで発酵させること。
時間をかけること。
それは昔ながらだからではありません。
人と穀物と微生物が作ってきた関係を、未来へ繋ぎたいからです。
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私は、人が発酵したパンを食べ続けてきた理由は、
美味しかったからだけではないと思っています。
保存が効いたからだけでもない。
そこには、微生物が穀物を変化させることで生まれる、
身体との相性の良さがあったのではないか。
そう思うのです。
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科学はまだ発酵の全てを解明していません。
けれど人類は、経験として知っていたのかもしれません。
発酵したものは違う。
身体が受け取る感覚が違う。
だから発酵文化は世界中に残った。
私はそう考えています。
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この記事を書いた人
小川芳治
・フランスで古代小麦製パンを研修
・石臼製粉
・古代小麦専門店「トロワパン」





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