2026-06-24

古代小麦屋

小麦から離れた人の受け皿になりたい。

最近は、グルテンフリー・小麦断ち・四毒。
そんな言葉を耳にする機会が増えました。
実際に、小麦を避ける人も増えています。
そして、小麦を使わない商品やお店も増えてきました。

身体を大切にしたい。そう考える人が増えたことは、とても良いことだと思います。

私自身も、食べるものには気をつけていますし、家族にもできるだけ良いものを食べてもらいたいと思っています。

だからこそ、私は少し違う視点から小麦を見ています。

私が疑問に思うのは、「小麦そのものが悪いのだろうか?」ということです。

人類は一万年以上前から小麦を育て、食べ続けてきました。
始まりは現在のトルコ、シリア、イラク周辺。
メソポタミアと言われるところ。

野生の麦を集めるところから始まり、人はやがて栽培を覚え、定住し、農業を始めました。
小麦は人類の歴史そのものと言っても過言ではありません。
それほど長い間、人類を支えてきた穀物です。
もちろん、現代の小麦が昔と同じとは思っていません。

収量を増やすための品種改良。
効率を重視した栽培。
短時間で大量生産する製パン技術。
そうした積み重ねによって、小麦を取り巻く環境は大きく変わりました。

最近では、「グルテンは身体に悪い」という言葉を耳にすることが増えました。

しかし、まず知っていただきたいのは、

グルテンは人工的に作られたものではなく、小麦がもともと持っているたんぱく質だということです。

小麦には大きく分けて、グリアジンとグルテニンという二種類のたんぱく質が含まれています。

この二つが水と混ざり、こねられることで結び付き、網目状の構造を作ります。

これが「グルテン」です。この網目があることで、

発酵中に酵母が生み出した二酸化炭素を抱え込み、パンはふっくらと膨らみます。

つまり、パンがパンらしく焼き上がるために、グルテンは欠かせない存在なのです。

グルテンが悪者なのだろうか?

私は、グルテンそのものを悪者として考えてはいません。

なぜなら、人類は一万年以上にわたり、グルテンを含む穀物と共に暮らしてきたからです。

もちろん、現代では小麦の品種や栽培方法、製粉方法、パンの作り方まで大きく変わりました。

だから私は、「グルテンがあるか、ないか」

という単純な話ではなく、どのような小麦に含まれるグルテンなのか。

どのような発酵を経たグルテンなのか。

そこに目を向けたいと思っています。

発酵によってグルテンは変化する

天然酵母による長時間発酵では、

酵母だけでなく、乳酸菌もゆっくりと活動します。

その過程では、小麦に含まれるたんぱく質の一部が酵素の働きによって分解され、

グルテンも少しずつ変化していきます。

また、全粒粉に含まれるフィチン酸も、

発酵中に働く酵素によって一部分解が進み、

ミネラルが利用されやすい状態へと変化していきます。

だからこそ、

昔ながらのパンづくりでは、

発酵に何時間も、

時には一日以上かけることが当たり前でした。

時間を短縮することよりも、

穀物が持つ本来の味わいや香り、

そして発酵による変化を大切にしていたのです。

私たちが目指しているもの

私たちは、

「グルテンフリーだから良い」

とも、

「グルテンは問題ない」

とも言いたいわけではありません。

人にはそれぞれ体質があり、

食べ物との相性も異なります。

だからこそ私たちは、

小麦そのものではなく、

どんな小麦なのか。

どのように育てられたのか。

どのように時間をかけて発酵したのか。

どのように石臼で挽かれたのか。

そこに価値があると考えています。

私たちが使っているのは、

アングラン(アインコーン)

アミドニエ(エンマー)

エポートル(スペルト)

セーグル(ライ麦)

といった古代穀物です。
現代小麦の祖先とも言われる穀物たちです。
収穫量は少なく、扱いも難しく、製パン性も決して良くありません。

効率だけを考えるなら、現代小麦を使った方がはるかに楽です。

それでも私たちが古代小麦を使うのは、
その味わいに魅力を感じているからです。
噛めば噛むほど広がる香り。

穀物本来の甘み、力強い風味、そして食後の満足感。

私たちは、その魅力に惹かれて古代小麦を選んでいます。

トロワの石臼



さらに、私たちは小麦を石臼で挽いています。
石臼は効率が悪く、とても手間がかかります。
しかし、ゆっくりと熱を持たずに挽くことで、小麦が持つ香りや風味を残すことができます。

そして天然酵母による長時間発酵。
発酵には時間がかかります。
急ぐことはできません。
しかし、その時間の中で酵母や乳酸菌が働き、小麦は少しずつ変化していきます。

全粒粉に含まれるフィチン酸も発酵によって分解が進みます。

フィチン酸は鉄や亜鉛などのミネラルと結合する性質がありますが、長時間発酵によってその一部が分解され、ミネラルが利用されやすい状態へ変わっていきます。
昔の人たちは、科学的な理由は知らなかったかもしれません。

それでも経験として、
時間をかけて発酵させることの大切さを知っていました。
私はそこに大きな知恵を感じています。

実際に私たちの店には、
「パンをやめていました」という方が来られます。

小麦を避けていた方。
パンを食べるのを我慢していた方。

そんな方が、
「久しぶりにパンを食べました」
「またパンが好きになりました」
と話してくださることがあります。

もちろん、すべての人に当てはまるとは思っていません。
体質も人それぞれです。
ですが、そのような声をいただくたびに、
私たちが目指している方向は間違っていないのかもしれないと思います。

私たちは、パン好きの方々のためだけにパンを作っているわけではありません。

むしろ、パンから離れてしまった人。パンを諦めていた人。
そんな人たちの受け皿になりたいと思っています。

だから私たちは今日も、
古代小麦を石臼で挽き、
天然酵母でゆっくり発酵させ、
時間をかけてパンを焼いています。

パンをやめていた人へ。
もう一度、パンのある暮らしを届けたい。
それが私たちの願いです。

トロワパン 店主

関連記事
ルヴァンと発酵
古代小麦とは?
アングラン(アインコーン・一粒小麦)とは
古代小麦と現代小麦の違い
全粒粉とフィチン酸

この記事を書いた人

小川芳治

・フランスで古代小麦製パンを研修

・石臼製粉

・古代小麦専門店「トロワパン」

関連記事

コメント3件

  • […] 関連記事ルヴァンと発酵古代小麦屋古代小麦とは?アングラン(アインコーン・一粒小麦)とは古代小麦と現代小麦の違い […]

  • […] どんな小麦なのか。どんな製粉なのか。どんな発酵なのか。そこまで含めて、初めて一つのパンになる。そう考えています。私たちトロワパンでは、アングランアミドニエエポートルセーグルこれらの古代穀物を石臼で挽き、ルヴァンで発酵させ、パンやパスタを作っています。古代小麦とは、単なる昔の穀物ではありません。人類が一万年以上付き合ってきた穀物です。そして今もなお、私たちに多くのことを教えてくれる穀物だと思っています。関連記事ルヴァンと発酵古代小麦屋アングラン(アインコーン・一粒小麦)とは古代小麦と現代小麦の違い全粒粉とフィチン酸 […]

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です